昔は、いわゆる止めを刺すのに、
一つのきびしい心得と作法があったらしい。
だから、武士たちは、
もう一息というところをいいかげんにし、
心をゆるめ、止めを刺すのを怠って、
その作法にのっとらないことをたいへんな恥とした。
ものごとをしっかりと確かめ、
最後の最後まで見極めて、
キチンと徹底した処理をすること、
それが昔の武士たちの
いちばん大事な心がけとされたのである。
その心がけは、小さい頃から、日常茶飯時、
箸の上げ下げ、あいさつ一つに至るまで、
きびしく躾けられ、養われていたのであった。
こんな心がけから、
今日のお互いの働きをふりかえってみたら、
止めを刺さないあいまいな仕事のしぶりの何と多いことか。
せっかくの九九パーセントの貴重な成果も、
残りの一パーセントの止めがしっかつと刺されていなかったら、
それは始めから無きに等しい。
もうちょっと念を入れておいたら、
もう少しの心配りがあったなら……
あとから後悔することばかりである。
おたがいに、昔の武士が深く恥じたように、
止めを刺さない仕事ぶりを、
大いに恥とするきびしい心がけを持ちたいものである。
松下幸之助翁
「道をひらく」より
1968年5月-日発行