人間にはいろいろな欲望があります。生きていくために必要なのが食欲、睡眠欲、性欲などです。しかし、こういった生理的欲求が満たされるならば幸せかというと違うようです。ある統計では、所得水準の低い国の方が現状への満足度が高いという結果が出ています。恵まれたら幸せというわけではないようです。
人間にはこのほか、他から認められたいという社会的欲求や、よりよい生き方をしたい、価値ある生き方をしたいというという自己実現の欲求もあります。人間とは素晴らしいものです。がんを告知されたら最初は戸惑い、狼狽します。が、立ち直り、残された人生の一瞬一瞬を充実させ、生きていこうと思うようになります。そういう人格完成への充実感の中にほんとうの人生の幸せがあるのだと思います。
薬師寺管主 安田暎胤師
リレー講座「現代社会と宗教」(立命館大学主催・読売新聞大阪本社後援)