私たちの生活において一番身近で手軽なお香というと、直接火をつけて使うタイプのお線香が思い浮かぶと思います。
昔はお線香といえば仏壇で使うものでしたが、今は色も形も、香りの種類もたくさんあります。「どこにでも持ち運べてすぐに使える」という気軽さで仏壇店だけでなくお香の専門店などで、香立てなどの付属品とともに数多く売られています。
お線香はいつできたのか?
お香の歴史はとても古く、5000年前の古代エジプト文明にさかのぼります。当時はミイラの防腐剤として香料が使われたり、良い香りは神に捧げるものであったと壁画にも残されています。その後、西と東に分かれ、東のインドで仏教と結びつき、中国を経て日本に伝わってお香の文化になったと言われています。
お香の文化が伝わってから、実際お香が線香の形に作られ、使用された時代は良くわかっていないことが多くまだ定説がありません。記録をたどっていくと、室町時代から安土桃山時代の頃に、線香が贈答品として用いられたという記録が残っています。
当時の線香は中国から輸入された竹芯香(ちくしんこう)と呼ばれるもので、細い竹ひごに線香の生地を塗り固めたものであったといわれています。
これらのような竹心を使わない線香が日本で作られたのは江戸時代半ばあたりではないかといわれており、この時期に経済が急成長し、貨幣制度が農村まで浸透し、商品作物の栽培も盛んになりました。そういった経済の後押しもあり、日本産の線香が生まれたといわれています。
お線香の原料
線香の基材となるものには椨(たぶ)、杉の葉、炭があります。
椨は樹皮を乾燥させて皮をはぎ、粉末にします。これに水を加えて練ると弾力のある、粘性の強いノリ状になります。これを粘着剤として線香は作られます。椨そのものにはかすかに甘い香りがありますが、ほかの香材の香りを邪魔しないという点も、椨が粘着剤として優れているところであり、匂い線香を作る上では外すことができない重要な原料となっています。
杉の葉には昔から滅菌効果があると信じられていました。悪いものを浄化する杉のイメージが線香の原料とされる下地になったと言われています。杉は江戸時代には日本全国に植林されており、捨てるほどに杉の葉がありました。そのため身近で安価にできたのもあり椨線香よりも杉線香の方が早く誕生しました。ただ、杉線香は椨でできたお線香の代用品でお香と使用することはなく、現在はお墓参りやお寺の常香炉用の線香として普及しました。
炭は煙を少なくするために用いられています。クヌギや樫の木のような広葉樹の炭を線香の基材として使います。線香の中の木質成分の何割かを炭に変えていくと煙が少なくなります。炭の割合が多くなれば煙は少なくなるのです。
お線香の形
線香の形は大きく分けて、スティック型・コーン型・うずまき型の3種類があります。
スティック型は一番よく見かける細い棒状の線香のことで一定の強さで香りを放ちます。コーン型は円錐形の線香で短時間で香りを広げたい時に使用します。うずまき型は一般的によくみかける蚊取り線香で、うずまき型に型押ししたタイプと、お通夜で線香番が楽になるように12時間薫き続けられるようにと作られたものがあります。どちらもスティック型よりは長時間薫くことを目的に作られています。
線香の香りや煙の意味
ご供養する側、生きている人にとって、香りは神様・仏様に捧げる供物であり汚れを祓い、場を浄める意味を持ちます。
また、亡くなった人にとっても大切な意味があります。仏教や宗派でいろいろ違いますが、人が亡くなってから忌明けまで食べられるものは「香り」や「煙」だけと言われています。ですから忌明けまでは香煙を絶やしてはいけないのです。忌明けとは、亡くなった人があの世に行ってしまったということですが、あの世にいても、こちらの声は聞こえ、香りや煙も届くそうです。仏様や故人のためにも良い香りの線香をたいたり、仏壇にお供えする食べものも私たちが食べる前に仏様にお供えすることで、香りを差し上げているということになるのです。
お線香の保存方法
合成香料の線香の香りは数年で消えてしまいます。天然の精油も揮発してしまうので数年で消えてしまいます。光や外気に触れた状態であれば一年も経たないうちに香りが消えますので、封をした状態で暗所で保存しますと長持ちします。
香木系の天然香料は香りがなくならず熟成していきますが、粘着剤として使用している椨が5年くらいで劣化してしまうので、天然のものであっても5年以内にはご使用するのがお勧めです。保存期間は商品によっても違いますので詳しくはメーカーにお問い合わせください。
香りは移りますので保存するときは違う商品は分けて保存することをお勧めいたします。木箱に分けていただくのが一番いいのですが、紙箱でもしっかり蓋が閉まって、カビも生えますので湿気のあるとことを避けて保存するのが最善の方法です。