人間にとって大切なものは三つあります。
それは、空間、静寂、そして沈黙です。
空間とは、孤立せず外へ向けて開かれた心。
インターネットや携帯メールで、
今、自分に都合が良いからという尺度だけでつながるのではなく、
遠い未来や場所に視野を広げて人間関係を築いていく心です。
今の人たちにこうした心が持てるのでしょうか。
また、喧噪の前に静寂した時間を持ったり、
饒舌に話す前に長い沈黙を保ったりすることができるのでしょうか。
「動静」と言いますが、
今の人たちは「動」と「静」の間で
いつも揺れているように思えてなりません。
禅の特徴を表す「心一境性(しんいっきょうしょう)」という言葉があります。
心を一つの対象にとどめて集中させていくという意味ですが、
これを成立することが、宗教を成り立たせることに通じるのです。
空間、静寂、沈黙という三つの要素を社会に回復することが今、
宗教にとって最も必要だと強く感じています。
奈良・法相宗大本山興福寺貫首 多川俊映師
(立命館大学主催・読売新聞大阪本社後援)